臨海部の大規模事業:必要性の根拠なく多額の税金投入
9月24日、決算審査特別委員会(総務分科会)での「臨海部の大規模事業について」むねた議員の質疑を紹介します。
- 臨海部ビジョンにおける、「港湾物流機能強化プロジェクト」ではどのような取り組みが位置付けられているのか、伺います。
◎答弁
「臨海部ビジョン」において、直近10年以内に先導的・モデル的に取り組む具体的なプロジェクトであるリーディングプロジェクトのーつに「港湾物流機能強化プロジエクト」を位置付けております。
このプロジェクトの具体的な取組については、コンテナターミナルや臨港道路等港湾施設の機能強化・拡充、国内外との航路拡充、物流施設群の老朽化対策等、物流機能強化に向けた堀込部士地造成事業の推進、コンテナターミナルや公共港湾施設等における脱炭素化の推進等を位置付けております。
●宗田
・
港湾物流機能の一つである東扇島について
・港湾局からの聞き取りで、現状をみてみます。
・東扇島コンテナターミナル関連事業費の決算額は9.6億円、総事業費は376億円、土地造成事業費の決算額2.6億円、総事業費は240億円となります。
・直近5年間のコンテナ取扱量は、2020年度16万TEU、21年度13万、22年度12万、23年度10万、24年度9万と年々減少しています。当初、40万TEUとしていた目標は、現在、29年度までに20万TEUをめざすというように大幅に下げられました。その目標さえも達成は難しい状況です。
・この問題は、行財政改革推進委員会でも「目標と実績の乖離が大きい」「到底達成できない目標を追い続けることは現実的ではない」と指摘されています。
・臨港道路東扇島水江町線については、当初の事業費540億円が現在の総事業費は1950億円と4倍近くになっています。その必要性も当初はコンテナが40万TEU来るから必要だとしていたのです。現在の必要性については、コンテナ取扱量の話は一切消えて、物流機能の強化、緊急物資輸送道路の多重化、防災機能の強化という風に変化しています。
・東扇島に来る緊急物資と労働者の避難路の確保をするような話をしていますが、震災時、働いている人たちを東扇島から橋を渡って石油コンビナートが集積する水江町に避難させたり、物資を輸送するということ自体、考え物です。
・結局、コンテナ取扱量が40万TEUになるという需要予測を立て、そのためにコンテナターミナルを拡張し、東扇島堀込部を埋め立て、臨港道路をつくるために、総事業費2566億円もかけています。しかし、コンテナ取扱量が40万どころか9万に減って、この3つの大規模事業の必要性自体、成り立たなくなっています。
キングスカイフロントについて
- キングスカイフロントと羽田連絡道路によって生じる経済波及効果と税収効果について伺います。
平成29年に行いました「殿町国際戦略拠点キングスカイフロントの形成による経済波及効果について」によりますと、キングスカイフロントの拠点形成及び多摩川スカイブリッジの整備に伴い、市内への経済波及効果としては、 10年間で、生産誘発効果は2,481億円、誘
発就業者数は10,164人と見込まれております。
また、税収効果といたしましては、経済波及効果に伴う個人・法人税収等として25億円、施設整備に伴う固定産税等の税収として95億円となっておりまして、合わせて120億円が見込まれております。
●宗田
・個人・法人税収、固定資産税収など10年間で120億円を見込んでいますが、実際、そのうち95億円は固定資産税で、誰がその土地を持っていようと税収は入ってきますので、税収増とは言えません。これを除いた25億円のうち建設時の効果額を除くと、わずか5.3億円。建設後、経常的に市にはいってくる税収増は年間5300万円程度です。研究開発のための高価な装置などの償却資産による税収増、年間2900万円。「羽田連絡道路の開通に伴う固定資産税の増収」分1.4億円などを合わせても税収増は年間2.2億円です。
- キングスカイフロントについて、どのような支援、投資を行ったのか、伺います。
キングスカイフロントにおきましては、健康・医療等の課題を解決し、日本の成長戦略をけん引する国際戦略拠点として、世界最先端の研究開発エリアの形成に向けて、国際戦略総合特区制度による支援や国の研究開発プログラムを活用してまいりました。
拠点形成におきましては、国の支援メニューを活用したナノ医療イノベーションセンターや、民間活力を活用した川崎生命科学・環境研究センター等の施設整備を行うとともに、民間の研究機関の施設整備において、助成制度による支援を行ってまいりました。
さらに、拠点内外との産学・産産連携などのクラスターマネジメントや、スタートアップを核としたイノベーシヨンの創出に向けたインキュベーションの取組など、研究開発や事業化への支援に取り組んでいるところでございます。
●宗田
・川崎市はこれまでに、土地の購入に69億円、羽田連絡道路に市負担分68億円、「神奈川口構想」のために国に100億円の無利子貸し付けをしており、その利子負担分40億円は市が負担しており合計180億円もの税金を投入しています。市は土地の購入費用は賃料で賄うとしていますが、69億円の土地のうち46億円分の土地は無償提供、無償貸与されており、2/3の土地からは賃料が入りません。税収増2.2億円があったとしても、市が投入した180億円の税金を回収するのに82年かかります。
- 川崎区の製造業について、2012年度と2021年度の事業所数と従業者数を伺います。
◎答弁
川崎区の製造業につきましては、平成24年経済センサス活動調査の結果によりますと、事業所数は918業所、従業者数は29,430人となっております。また令和3年経済センサス活動調査の結果によりますと、事業所数は816事業所、従業者数は28,124人となっております。
・
●宗田
- 川崎区の法人市民税収について、2014年度と2023年度の決算額を伺います。
◎答弁
同区における法人市民税の課税額につきましては、平成26年度は、 86億374万1千円、令和5年度は、 71億9,492万8千円となっております。なお、地方税法の改正に伴う法人税割の税率引き下げが、この間にございました。
また、臨海部に立地する法人に対する法人市民税、固定資産税、事業所税及び都市計画税の課税額を推計いたしすと、平成26年度は、約369億円、令和5年度は、約408億円となっております。
●宗田
・この10年余りで川崎区の製造業の事業所は100減少、従業員も1300人減少、法人市民税収も15億円減少。これはJFE撤退の影響が出る前の数字ですから、今はもっと減っていると思われます。これら先端産業の研究が製品実用化につながったのは、わずか13件です。
・結局、キングスカイフロントについて、川崎市は経済波及効果2481億円、誘発就業者数10164人、税収増120億円と見込んで、市の税金を180億円投入しましたが、この10年間では川崎区の製造業の事業所数、従業員数、税収のどれも増えていないというのが実態です。
*臨海部の推計の内訳
・臨海部のエリア(川崎区の一部)での推計値
・法人市民税(41→40)、固定資産税・土地(154→177)償却資産(109→119)、事業所税(32→33)、都市計画税(33→38)
・税収が上がった原因は固定資産税の上昇。物価上昇による地価の上昇と物流倉庫と工場の設備の新築。
扇島について
・臨海部ビジョンのカーボンニュートラルの目玉事業として、扇島の「大規模な土地利用転換」がありますが、
- この土地利用転換について、将来的には川崎市はどのくらいの市費をどのような事業に投入するとしているのか、伺います。
◎答弁
令和5年8月に策定した土地利用方針におきまして、2050年度の土地利用概成時のモデルケースを想定し本市の概算事業費を試算した結果、道路1,250億円、港湾600億円、生活インフラ175億円、オープンスペース等施設25億円の累計2,050億円となっております。
また、官民合わせた概算投資額のシミュレーションをもとに想定される税収見込額を試算した結果、 2050年代中頃には、税収の上昇分の累計額が、本市の概算事業費の累計額を上回り、投資回収が図られる見込みとなっております。
●宗田
・市はJFEが撤退した跡地に、今後、扇島とのアクセス道路、港湾施設などに市の税金を2050億円も投入する計画です。扇島先導エリアの整備として、2028年度からの液化水素サプライチェーンの商用化実証事業のために、大水深バースとアクセス道路の整備に取り組んでいます。
・しかし、この液化水素サプライチェーンについて、昨年、オーストラリアからの液化水素の輸入は中止となり、日本政府からも「オーストラリアからの水素調達は困難」と判断され、その他の地域、国内、海外からの水素調達も目途が立っていないことが明らかになりました。さらに、発電コストも火力発電の2倍にもなり、CCSなど技術的課題も多数あり、多くの国では実証化・商用化まで相当かかること、各国の許認可が取れるかわからないことなど、まさに事業として成り立つ目途も立っていないことが明らかになっています。世界的には、水素の混焼発電は、40年代以降もCO2を大量に出し続け、化石燃料による発電の延命措置だと多くの批判を浴びています。
(要望)
・臨海部ビジョンについて、東扇島の物流機能強化のための数々の事業にしても、キングスカイフロントについても、過大な需要予測を立てて市税を数千億円規模で投入してきましたが、結局、思ったような経済波及効果や税収増にはなりませんでした。
・この扇島の土地利用転換、液化水素サプライチェーンにしても、需要が過大で、必要性、実現性も極めて乏しいのが現実です。特に液化水素サプライチェーンの事業は見直すことを強く求めます。



