先進国は「2035年までに電力部門のCO2排出ゼロ」を最優先に
世界的な最優先課題について
日本:CO2排出量(カーボンバジェット)残余は6年で尽きる
2030年までにCO2排出量の半減が不可欠
・気温上昇を1.5度に抑えるために、今後、排出することができるCO2排出量(カーボンバジェット)について、政府間パネル(1PCC)第6次評価報告書から出されています。
・67%の確率で気温上昇を1.5度に抑えるためには、今後、排出することができるCO2排出量(カーボンバジェット)は、一般的には世界で4000億トン、日本の場合64.3億トンしか残っていません。日本のCO2排出量は年間11億トンですから、このままでいくと6年で尽きてしまいます。
エネルギー転換・発電部門(CO2排出量の4割)を最優先に削減
・国際エネルギー機関(IEA)は、そのためにはCO2排出量の4割を占めるエネルギー転換部門、発電部門を最優先に削減させる必要があるとしています。22年5月に開かれたG7(先進国)気候・エネルギー・環境相会合の声明でも「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化すること」を確認しました。
・世界的なCO2削減の最優先課題は電力部門の脱炭素化です。
川崎市の最優先課題について
CO2排出量:政令市でトップ、臨海部76%(7社で7割)
排出量5割を占める臨海部の電力部門(5か所)を35年までにゼロに
・CO2排出量について、川崎市は約2000万トン、政令市で1番であり、そのうち76%は臨海部から出されています。臨海部には5か所の発電所があり、1600万トンが排出されていますが、これは2000万トンにはほとんど含まれていないので総排出量は約3300~3500万トンです。そうなると川崎市の場合CO2排出量の約半分は電力部門から排出されています。
川崎市臨海部の水素戦略
石炭由来の水素では世界に通用しない
オーストラリアで石炭を燃やして作った水素を輸入
川崎市は、オーストラリアで石炭(褐炭)を燃やして作った水素、グレー水素を作り、CO2を回収・削減するためのCCS技術を使ってブルー水素にして輸入するということです。輸入した水素は、天然ガス発電所で天然ガスに混ぜて燃やす、いわゆる混焼で発電し、ゆくゆくは水素のみで燃やす専焼に移行するとしています。
‐253度に冷却して船舶で輸送、発電コストは太陽光の4倍
水素の混焼・専焼発電について、一番の問題は輸送費で、―253度まで冷却して液化した水素をオーストラリアから運んでくるため、水素専焼の発電コスト(専焼21円/kwh)は、太陽光や風力(5~6円)の4倍、今の天然ガス(12円)の2倍でとても高すぎて使えません。しかも、水素を液化してオーストラリアから船舶で輸送するとなると、膨大なエネルギーロスが生じます。
CO2排出し続ける電力から作る製品は輸出できなくなる
次にサプライチェーンの問題です。世界的な大企業では、「つくる」「運ぶ」「使う」「廃棄する」などすべての工程において、CO2排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を強化する動きが強まっています。これに合わせて国際エネルギー機関(IEA)やG7先進国は「2035年までに電力部門からのCO2ゼロを目指す」と確認しています。しかし、資源エネルギー庁の計画では、2040年代まで水素混焼を続け、専焼に移行するのは50年以降としています。そうなると40年代まで発電所からCO2を排出し続けることになり、こういう電力を使って製造した部品、製品は輸出できなくなり、世界のサプライチェーンから外されることになります。35年までにCO2フリーエネルギーを供給する体制をとらないと臨海部から製造業が失われるという危機感がないのか、市長に伺います。先進国での再エネは、太陽光や風力が中心であり、臨海部の広大な土地、建物を使えば、太陽光などでCO2フリーエネルギーを自給することは可能です。水素の混焼・専焼発電の計画は中止をして、太陽光・風力などの自然エネルギーに切り替えるべきです、市長に伺います。
●再質問
市長「国のエネルギー計画に沿って水素を導入」
水素発電について、コスト的にもエネルギーロスという点でも「水素発電は実施すべきではない」という質問に対して、答弁は「国のエネルギー基本計画で、水素・アンモニアを導入する方向性が掲げられているから」というものでした。しかし、日本の水素戦略は、世界の水素戦略からみても、全く異質のものとなっています。
世界と日本の水素戦略の違いに
世界の水素戦略:グリーン水素中心で電化困難な分野に限定
世界的な水素戦略は、用途としては「電化、脱炭素化が困難な分野」に限っており、生産する水素も「グリーン水素の国内生産」を中心にしています。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は「水素は現在代替手段がない用途に限って使用」、EUは、「脱炭素化や電化が困難な用途」として、化学製品の製造、鉄鋼生産などに限っています。ドイツでは「グリーン水素のみが、長期的にみて持続可能なもの」、中国では「グリーン水素を中心に発展させ、化石燃料由来の水素生産を厳しく制限する」としています。
日本の水素戦略:水素燃料電池が破綻し、水素混焼発電に切替
一方、日本の水素戦略は、IRENAが「好ましくない用途」としている家庭用燃料電池(エネファーム)と燃料電池乗用車(FCV)、水素ステーションを重点的に推進し、10年間で水素関連予算の7割を使ってきました。しかし、家庭用燃料電池は、このままでいけば2030年には目標の5分の1程度にしかなりません。FCVの普及実績はさらに悪く、普及目標の40分の1にすぎず、政府の水素戦略は完全に破綻しています。そこで政府は、火力発電に水素を混ぜて使用する混焼に切り替え、混焼率を上げてゆくゆくは水素のみで発電する専焼に舵を切ってきたのです。
日本:間違った戦略で水素戦略でも欧州・中国に大きく遅れて
さらに、日本の水素戦略で問題なのは、排出削減効果のない、またはあいまいな化石燃料由来の水素(グレー水素、ブルー水素)を優先し、しかもそれらの多くを輸入に頼るという誤った戦略をとったことです。これにより、脱炭素化で最も重要な役割を果たすグリーン水素の国内生産という点で、日本は欧州や中国などの後塵を拝しています。
川崎市の水素戦略:首都圏の製造業の存続が危機に
サプライチェーンについて、先進国は2035年までにCO2フリーエネルギーを達成するとしているときに、日本は2050年まで化石燃料由来の水素を天然ガスと混焼しCO2を出し続ければ、その電力を用いて製造される材料や製品は、国際的なサプライチェーンから外されます。川崎市のCO2を排出して作られた電力エネルギーの影響は、全首都圏の製造業に及ぶのです。この誤った政府の水素戦略、水素発電に、このまま追随してよいのか、もう一度検討すべきです、市長に伺います。
●再々質問
CCS使用の水素(専焼)の電力でも欧米の基準はクリアできない
輸入ブルー水素についてです。
欧米では、化石燃料由来のブルー水素について、単にCCSを用いてCO2を回収して排出削減するだけでは支援の対象とせず、EUはCO2の回収率を70%以上、イギリスは80%、アメリカは90%と厳しい基準を設けています。例えばアメリカの基準では日本のブルー水素はクリアできません。日本の輸入ブルー水素が世界的に通用すると考えているのか、市長に伺います。たとえ水素のみの専焼発電になったとしても、このエネルギーで作った部品や製品はアメリカには輸出できないと思いますが、市長に伺います。
◎答弁
本年4月の国際エネルギー機関のレポートでは、 ブルー・グリーンといった色によらない、 C02の排出量を基準(クリーン水素)とする「炭素集約度」に基づくサプライチェーン構築の重要性が示されており、国においても、国際標準となり得る算定方法に則り、国際的に遜色のない低炭素目標を掲げ、この目標に適合した水素の導入を推進して いくこととしています。
本市といたしましては、この目標に適合した低炭素水素によるサプライチェーンを構築していくことは、 川崎臨海部の産業競争力の維持強化に資するものと考えておりますので、国や民間企業と連携し、全国に先駆けたカーボンニュートラルニンビナートの形成に向けた取組を積極的に進めてまいります。
*クリーン水素
IEA(国際エネルギー機関)は2023年4月、天然ガスや石炭などの化石燃料から製造された水素でも、炭素回収(CCS=CO2回収・貯留)技術と組み合わせることによって、製造プロセスの炭素集約度(単位当たりの水素製造時に発生するCO2排出量)を水素1kg当たり7kg未満とすれば「クリーン水素」とみなす推奨基準を明らかにした。
しかし、アメリカのクリーン水素の定義は、水素1kgあたり炭素強度(GHG’温室効果ガス‘排出量がCO2換算で)2kg以下となっており、IEAに日本が合わせたとしてもアメリカの基準はクリアできない。
国 | CO2回収率(CCS) | 水素1kg製造時のCO2排出量(炭素集約度) |
EU | 70% | |
イギリス | 80% | |
アメリカ | 90% | 2kg |
日本(クリーン水素) | 7kg |
JFE跡地に市費2050億円投入する港湾整備(輸入水素受入れ・貯蔵)は見直しを
川崎市は、JFE跡地の土地利用のために、市費2050億円を投入するとしています。そのかなりの部分を輸入水素の受け入れ、貯蔵するための港湾整備に使われようとしています。しかし、国の水素戦略、特に水素発電は、コスト、エネルギーロス、CO2フリーエネルギーという点で、世界的に通用するものではなく、このままでは世界的なサプライチェーンからも外され、臨海部から製造業が失われる危険さえあります。このような輸入水素、水素発電のための扇島の港湾整備は、見直すべきです。
日本共産党の提案
- 臨海部の脱炭素戦略
- IEAや先進国が掲げる「2035年までに発電部門のCO2をゼロにする」という目標を達成するには、政令市で一番多い一のCO2排出量の川崎市では、その約半分を占める発電部門の排出量を2035年までにゼロにすることが求められている。IEAやG7の指針からいけば、発電部門の排出量1600万トンをゼロにする必要がある。目標と具体的行動を早急に示す。
- CO2排出量の7割を占める臨海部の電力、鉄鋼、石油関連企業7社とCO2削減目標や計画などの省エネ、再エネに向けた協定を結ぶこと。
- 輸入水素を利用する発電は見直しをし、太陽光を中心とした再エネで2035年までに100%CO2フリーエネルギーを供給すること。再エネ、省エネ、蓄電池などの企業を誘致して臨海部の産業転換を図ること。
- 地球温暖化防止条例について
- 地域電力会社について、一般家庭や工場、事業所への太陽光パネル無料設置まで拡大して、PPAモデルを推進する。(共産党の提案で実現)
- 初期費用の負担、設置義務について、初期費用の掛からないPPAモデルを推進すると同時に、屋根面積が狭小の場合の除外規定を設ける。東京都のような省エネ・再エネ補助金制度を創設する。
省エネ・再エネ・蓄電池の企業誘致―現在の3倍の雇用を生み出す
石油から再エネへのエネルギー転換が予想され、産業も石油関連から再エネ・省エネへと大規模な産業転換が予想されます。これら再エネ、省エネ、蓄電池の関連企業を川崎市に誘致すれば、市内への投資、生産につながり、生産物は市内で消費することになります。この産業転換によって、どれだけの雇用が拡大するのか、川崎市地球温暖化対策推進基本計画の目標に基づき試算しました。その結果、現在、化学・石油・プラスチックの3産業における従業者数は9500人ですが、石油・化学関連産業から省エネ、再エネによる産業転換により、10年間で省エネ関連では19000人、太陽光発電部門で16000人、あわせて35000人の雇用を生み出すとしています。現在の従業者数の3倍の雇用が生まれることになります。
地域電力会社―太陽光パネル無料設置(PPA)で今の電力料金の半額で提供可能
(共産党の提案で実現)
22年6月、わが党は再エネ100%供給を推進するために、工場や住宅に太陽光パネルを無償に設置する事業を提案しました。一方、川崎市も11月に環境審議会からの答申を発表し、その中で地域電力会社を設立し、民家や工場の屋根に太陽光パネルを無償で設置し、使用した電力量に応じて電気料金を請求する「PPA(電力購入契約)」にも取り組むことを表明しました。この方式について、わが党の試算では、一般家庭、工場や事業所に今の電力料金の半額で提供したとしても、PPAによる収益は年5.8億円、投資額は約6年で回収が可能という結果が出ています。