むねた裕之
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臨海部の水素戦略:化石燃料由来のブルー水素では世界に通用しない

9月14日、川崎市議会9月議会での日本共産党の代表質問「臨海部の水素戦略について」の質疑を紹介します。

●質問

オーストラリアで褐炭を燃やして作った水素を輸入

臨海部の水素戦略についてです。

 川崎市は、オーストラリアで褐炭を燃やして作った水素、グレー水素を作り、CO2を回収・削減するためのCCS技術を使ってブルー水素にして輸入するということです。輸入した水素は、天然ガス発電所で天然ガスに混ぜて燃やす、いわゆる混焼で発電し、ゆくゆくは水素のみで燃やす専焼に移行するとしています。

‐253度に冷却して船舶で輸送、発電コストは太陽光の4倍

水素の混焼・専焼発電についてです。

 まずコストについてです。一番の問題は輸送費で、―253度まで冷却して液化した水素をオーストラリアから運んでくるため、水素専焼の発電コストは、21円、混焼でも12円です。欧米では、太陽光や風力の発電コストが5円前後、今の天然ガスでも11円なのに、その2~4倍のコストでは、工場はもちろん、家庭用でも使えません。しかも、CCSでCO2を回収・貯蔵し、水素を液化してオーストラリアから船舶で輸送するとなると、膨大なエネルギーロスが生じます。これだけコストが高く、エネルギーロスも膨大なのに水素発電を実施するのか、市長に伺います。

CO2排出し続ける電力から作る製品は輸出できなくなる

 次にサプライチェーンの問題です。世界的な大企業では、「つくる」「運ぶ」「使う」「廃棄する」などすべての工程において、CO2排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を強化する動きが強まっています。これに合わせて国際エネルギー機関(IEA)やG7先進国は「2035年までに電力部門からのCO2ゼロを目指す」と確認しています。しかし、資源エネルギー庁の計画では、2040年代まで水素混焼を続け、専焼に移行するのは50年以降としています。そうなると40年代まで発電所からCO2を排出し続けることになり、こういう電力を使って製造した部品、製品は輸出できなくなり、世界のサプライチェーンから外されることになります。35年までにCO2フリーエネルギーを供給する体制をとらないと臨海部から製造業が失われるという危機感がないのか、市長に伺います。先進国での再エネは、太陽光や風力が中心であり、臨海部の広大な土地、建物を使えば、太陽光などでCO2フリーエネルギーを自給することは可能です。水素の混焼・専焼発電の計画は中止をして、太陽光・風力などの自然エネルギーに切り替えるべきです、市長に伺います。

◎答弁

国の第6次エネルギー基本計画において、太陽光や風力の出力変動を吸収し、電力の安定供給に資する電源として火力発電の機能が示されております。一方で化石 燃料を使用した火力発電は、C02の排出源であることから、その環境対策として、水素・アンモニアを導入していく方向性が掲げられております。

また、電化が困難な熱需要の多い川崎臨海部において、水素は脱炭素化に有効なエネルギーであり、産業部門における水素利用を進めていくためには、大規模発電による安定的な水素需要を立ち上げるなど、需給一体の取組 が重要と考えております。

次に、企業のサプライチェーンについてでございますが、国は、2050年のカーボンニュートラル社会の実現を目指し、水素発電においても、混焼から専焼への取組を進め、脱炭素化を目指していくこととしております。

川崎臨海部の立地企業においては、このような国の動向を踏まえながら、各社でカーボンフリー電力の利用について検討を進めており、本市といたしましては、立地企業の取組の方向性や意向を見定めながら、水素などのカーボンニュートラルなエネルギー利用が可能とな る環境の構築と、エネルギーが地域で最適化され、立地競争力のある産業地域の形成に向けて取り組んでいるところでございます。

次に、再生可能エネルギーについてでございますが、 川崎臨海部は、外洋に比べて風速が弱く、また、高密度に土地を産業利用していることから、風力発電や大規模な太陽光発電の設置には、地理的な制約があると考えております。首都圏へのエネルギー供給拠点である川崎臨海部が、カーボンニュートラル社会においても、同様の役割を果たしていくためには、水素を軸としたカーボンニュートラルなエネルギーの供給拠点へと変革していく必要があると考えており、引き続き川崎臨海部の特性を生かした取組を進めてまいります。

●再質問

市長「国のエネルギー計画に沿って水素を導入」

 水素発電について、コスト的にもエネルギーロスという点でも「水素発電は実施すべきではない」という質問に対して、答弁は「国のエネルギー基本計画で、水素・アンモニアを導入する方向性が掲げられているから」というものでした。しかし、日本の水素戦略は、世界の水素戦略からみても、全く異質のものとなっています。

世界の水素戦略:グリーン水素中心で電化困難な分野に限定

世界と日本の水素戦略の違いについてです。

 世界的な水素戦略は、用途としては「電化、脱炭素化が困難な分野」に限っており、生産する水素も「グリーン水素の国内生産」を中心にしています。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は「水素は現在代替手段がない用途に限って使用」、EUは、「脱炭素化や電化が困難な用途」として、化学製品の製造、鉄鋼生産などに限っています。ドイツでは「グリーン水素のみが、長期的にみて持続可能なもの」、中国では「グリーン水素を中心に発展させ、化石燃料由来の水素生産を厳しく制限する」としています。

日本の水素戦略:水素燃料電池が破綻し、水素混焼発電に切替

 一方、日本の水素戦略は、IRENAが「好ましくない用途」としている家庭用燃料電池(エネファーム)と燃料電池乗用車(FCV)、水素ステーションを重点的に推進し、10年間で水素関連予算の7割を使ってきました。しかし、家庭用燃料電池は、このままでいけば2030年には目標の5分の1程度にしかなりません。FCVの普及実績はさらに悪く、普及目標の40分の1にすぎず、政府の水素戦略は完全に破綻しています。そこで政府は、火力発電に水素を混ぜて使用する混焼に切り替え、混焼率を上げてゆくゆくは水素のみで発電する専焼に舵を切ってきたのです。

排出削減効果のない化石燃料由来の水素を輸入

さらに、日本の水素戦略で問題なのは、排出削減効果のない、またはあいまいな化石燃料由来の水素(グレー水素、ブルー水素)を優先し、しかもそれらの多くを輸入に頼るという誤った戦略をとったことです。これにより、脱炭素化で最も重要な役割を果たすグリーン水素の国内生産という点で、日本は欧州や中国などの後塵を拝しています。

サプライチェーンについて、先進国は2035年までにCO2フリーエネルギーを達成するとしているときに、日本は2050年まで化石燃料由来の水素を天然ガスと混焼しCO2を出し続ければ、その電力を用いて製造される材料や製品は、国際的なサプライチェーンから外されます。川崎市のCO2を排出して作られた電力エネルギーの影響は、全首都圏の製造業に及ぶのです。この誤った政府の水素戦略、水素発電に、このまま追随してよいのか、もう一度検討すべきです、市長に伺います。

◎答弁

国の第6次エネルギー基本計画においては、 2050 年に向けて、温室効果ガス排出の8割以上を占めるエネルギー分野の取組が重要とされております。 川崎臨海部は首都圏へのエネルギー供給拠点であり、 カーボンニュートラル社会においても、その役割を果たしていくためには、LNG火力発電所を水素発電に転換していく必要がございます。

あわせて、川崎臨海部は熱需要が多いエリアであり、 水素は電化が困難な産業部門のカーボンニュートラル化に向けたキーテクノロジーとなることから、水素利用を進めていくためには、水素発電といった大規模かつ安定的に水素需要を支える取組が重要と考えております。 本市といたしましては、水素などのカーボンニュートラルなエネルギー利用が可能となる環境の構築など、産業競争力の強化につながる取組を引き続き進めてまいります。

●再々質問

市長「水素発電といった大規模な水素需要に」使うと答弁

 国の水素戦略、特に水素発電は破綻していることを示して、「水素発電は再検討を」求めたのに対して、答弁は「水素発電といった大規模な水素需要を支える取り組みが重要」としました。要するに臨海部の輸入水素のかなりの部分は水素発電に使われることを認めました。

CCS使用のブルー水素の電力でもアメリカの基準はクリアできない

輸入ブルー水素についてです。

 欧米では、化石燃料由来のブルー水素について、単にCCSを用いてCO2を回収して排出削減するだけでは支援の対象とせず、EUはCO2の回収率を70%以上、イギリスは80%、アメリカは90%と厳しい基準を設けています。例えばアメリカの基準では日本のブルー水素はクリアできません。日本の輸入ブルー水素が世界的に通用すると考えているのか、市長に伺います。たとえ水素のみの専焼発電になったとしても、このエネルギーで作った部品や製品はアメリカには輸出できないと思いますが、市長に伺います。

JFE跡地に市費2050億円投入する港湾整備(輸入水素受入れ・貯蔵)は見直しを

 川崎市は、JFE跡地の土地利用のために、市費2050億円を投入するとしています。そのかなりの部分を輸入水素の受け入れ、貯蔵するための港湾整備に使われようとしています。しかし、国の水素戦略、特に水素発電は、コスト、エネルギーロス、CO2フリーエネルギーという点で、世界的に通用するものではなく、このままでは世界的なサプライチェーンからも外され、臨海部から製造業が失われる危険さえあります。このような輸入水素、水素発電のための扇島の港湾整備は、見直すべきです、市長に伺います。