むねた裕之
むねた裕之むねた裕之

学校のプール水流出事故 行政の不備が原因、教員への賠償は不当、撤回を!

9月14日、川崎市議会9月議会での日本共産党の代表質問「学校のプール水流出事故について」の質疑を紹介します。

●質問

学校のプールにおける水の流出事故についてです。

市立稲田小学校において、プールの注水に際し、止水作業に失敗し、5日間注水し続けたことで、プールの水を流出させた事故が発生しました。市は、民法709条に基づき、その損害額約190万円の半額を校長と教員、両名に支払わせるというものです。

操作した教員は、プール開きに向けて、プールに注水するため、操作盤の注水スイッチと同時にろ過装置を作動したため、警報音が鳴り、警報を止めるためにブレーカーを落とし、止水のために注水スイッチも落としました。しかしブレーカーが落ちていたため、注水スイッチは機能せず、注水は継続したということです。市は、「止水を確認しなかったこと」、「正しい操作方法の確認を怠った」などの過失があるとして、民法709条の「故意または過失がある場合は賠償責任を負う」という規定に基づいて、教員に賠償責任を課しました。

事前説明なしで初めての教員に指示

教員の責任についてです。

市は、「正しい操作方法の確認を怠った」として、教員の過失があったとしています。しかし、今回のケースは、取扱説明書もなく、唯一、注意書きがついた装置の写真1枚のみが機械室に置かれており、それに沿って操作を実施しました。シーズン最初にその写真の注意書き通りに実施すると注水とろ過装置を一緒に作動させるため、必ず警報が鳴ります。実際、昨年も同じように操作をして警報が鳴ったということですから、誰がやっても写真の注意書き通りやると警報が鳴るということです。プールの装置の説明は年に1回のみ行われますが、この教員は、この説明を受けておらず、シーズン最初の作業は初めてだったにもかかわらず、この業務を指示されたということです。これでどうして教員の過失と言えるのか、教育長に伺います。

4割の学校で取扱説明書もなく事故防止対策もない

行政の責任についてです。

全国では、数年前からプールの問題が多発しており、その対策として例えば東京都は2度の通達を出して、適正な管理、事故防止策や実施状況の点検などを徹底していました。

しかし、市は、事故の後に「年度当初のプール使用開始前に、機器の説明や給水も含めた装置操作方法を確認する」と回答しており、今回のケースのように年度当初の機器の操作説明や取扱説明書などを全学校に徹底してこなかったことを認めました。さらに市は、取扱説明書の配備状況も把握しておらず、今になって調査していますが、配備していない学校は4割近くになるということです。全国でプール流出問題が出ていて、多くの学校で同じような事故が発生する可能性があるのに、市は何ら対策を取らず、この状況を放置していたことになります。これでどうして市は行政としての責任を果たしたといえるのか、教育長に伺います。

◎答弁

教育長「4割の学校でマニュアルがなかった」

はじめに、教員の責任についてでございますが、当該小学校のプールにつきましては、注水をする際、スイッチを「切」から「自動」に切り替えるだけで、一定の水位になれば自動で止水する機能を有しており、通常であれば、流出事故が発生する可能性はございません。

しかしながら、本件事故においては、水がまだ溜まっていない状況で、注水開始時に、ろ過装置のスイッチも入れたことから警報音が鳴り、これを止めようと、プール操作に係る電源ブレーカーを落としたものでございます。この誤操作により、全ての操作に係る機能が喪失し たほか、止水作業時にプールの吐水口から水が止まっているかを確認しないまま、その場を離れたことにより、 大量の水が流出したものであり、これらの行為には過失 があるど判断したものでございます。

次に、プールの給水操作につきましては、これまでも毎年実施している循環浄化装置等の保守点検時に、受託業者から学校の教職員に対して取扱いの説明を行ってきたところでございます。

教育長「配慮が十分でなかった」

しかしながら、給水装置等の操作マニュアルが整備されていなかった約4割の学校では、教職員間の引継ぎや操作盤の表示などに基づく操作を行っていた実態もこざいます。 教育委員会といたしましても、発生予防への配慮が十分ではなかったと認識しておりますので、今後、確実に作業ができるよう、「学校水泳プールの安全管理マニュア ル」を一部改訂し、研修会等を通じて、複数の教職員による止水の確認等を徹底するとともに、各学校において 操作マニュアル等の整備及び内容の確認・更新なども行い、再発防止に向け努めてまいります。

●再質問

写真の指示通りにやると必ず警報が鳴る

教員の責任についてです。

教員の操作について、答弁は「注水開始時に、ろ過装置のスイッチも入れたことから警報が鳴った」、「警報を止めようとしてブレーカーを落とした」から過失だとしています。それでは、当日、教員はどのような操作を行ったのか、再現してみます。ディスプレイをお願いします。

当日、教員は、機械室にあった「注意書き付き写真1枚」で操作を開始します。

操作盤には右下に「注水スイッチ」、左下に「沪過スイッチ」があります。

まず、操作盤の裏のブレーカーを入れて、注水スイッチを「自動」にします。

そして沪過スイッチも「自動」にしました。それは、写真では沪過スイッチは「自動」になっていたからです。

水が入っていないまま沪過スイッチを作動させたため、警報が鳴りましたが、これは写真の注意書き通りにやった結果であり、昨年も同様の操作で警報が鳴ったように誰がやっても警報はなるのです。警報を止めるには、沪過スイッチを「切」にすれば良いのですが、写真の注意書きに「こちらはいじりません」と書いてあったために、ブレーカーを落として警報を止めるしかなかったのです。そもそも警報を止めるためのマニュアルもなかったのです。これのどこが教員の過失なのですか、伺います。

警報の停止やブレーカーのマニュアルもなし

また「水が止まっていることを確認しなかったから」過失としています。しかし、そもそも説明を受けていない操作が初めての教員に、警報が鳴るような操作を指示し、警報の停止やブレーカーのマニュアルもなく、想定外の状況にさせておいて、「確認する注意を怠ったから」として教員に責任を押し付けることが許されるのか、教育長に伺います。

最高裁判例では個人賠償の前に使用者責任が問われる

行政の責任についてです。

答弁は「約4割近い学校では、マニュアルが整備されておらず」、今回のように「操作盤の表示に基づく操作を行っていた実態がある」こと、「発生予防への配慮が足りなかった」ことを認めました。

最高裁判例では、労働者側の賠償責任を問う前に、使用者側の責任について慎重に審議することを求めています。判例では、業務に伴い発生する危険について、保険など損失の分担、事前の説明など労働者への配慮、危険・損害を回避するための措置が十分だったのかという「危険責任の原則」が問われています。

東京都ではプール管理者を置き報告・確認

この危険責任について、例えば東京都の通知では、まず、作業者とは別にプール管理責任者を指定し、管理者が給水開始・終了時の報告の確認、給水開始時の確認では、複数の教職員から確認印を受けること、給水終了時刻を過ぎてもなお給水終了の報告がない場合は作業者に対して確認を行い、不必要な給水を防止することとしています。川崎市は、このような管理のための通知を出しているのか、又このような危険回避の措置をとるように指示をしているのか、教育長に伺います。

◎答弁

本事案につきましては、事案発生後に、十分時間をかけて、当該教員や管理職からの聞き取りや、現地での確 認を行うとともに、業者からの説明等も受けながら、事実関係を精査してまいりました。その上で、教員と校長の過失を認定したものであり、賠償請求に至る他都市の 事例についても丁寧な説明に努め、理解を得ているものと老えており、そのことは、私が校長と面談した際にも確認しております。また、当該教員の考えや状況についても面談時に共有しており、本市の考え方について、理解が得られているととを確認しております。

注水作業を始める段階から、作業の終了、その後の警報発報後の対応の各段階において、いくつかの判断ミスが重なったことにより、本事案の発生に至ったものであり、過去の裁判例と他都市の事例から、過失に対する相応の賠償を求めるものであると考えております。

次に、プールの管理についてでございますが、「学校水泳プールの安全管理マニュアル」.においては、プールの安全管理責任者を明示しておりましたが、安全面、環境 衛生面での管理が中心であったため、今回の事案を受けまして、「日常点検りスト」を活用して、給水開始終了時の具体的作業等について校長に報告するとともに、複数の教職員による確認を徹底することとし、各校長処てに通知したところでございます。

過失は教員の責任ではなく行政側の責任

●再々質問

学校のプール流出事故についてです。

教員の責任について、答弁は「各段階において、いくつかの判断ミス」があったことを挙げています。しかし、ミスを起こさせたのは、行政側ではないですか。取扱説明書もマニュアルもなく、間違った指示をした写真1枚で、警報の止め方もブレーカーの説明もなく、初めて作業する教員に業務を押し付けたのです。このミス、過失は教員の責任ではなく、行政側の責任とすべきではないですか、教育長に伺います。

事故後にマニュアル作成

行政の責任について、答弁は「安全マニュアルを作り、管理者を置いて給水開始・終了時に報告する」としています。しかし、このマニュアルは先月、8月に作ったものであり、事故後に作成しても遅いのです。結局、事故前は、東京都のような通知、マニュアルはなく、管理責任者も防止策もなかったのです。これでどうして行政の責任を果たしたといえるのか、教育長に伺います。

◎答弁

教育長「今後、マニュアルの徹底と民間活用を」

本件事故にきましては、事実関係を精査し、類似 件の住民訴訟の裁判例や他都市での事例を踏まえ、顧問弁護士とも協議し、過失があるものとして判断したものでございまして、行政側としても、損害の予防に関する配慮が十分ではなかったことなどを考慮し、損害額の5 割を請求したものでございます。

今後、こうした事故が発生しないよう、今回改訂した 安全管理マニュアルに基づく取組の徹底をはじめ、教職員の負担軽減にも資する民間活力の活用等を含め、再発防止に向けた検討を進めてまいります。

●最後の意見

「重過失には当たらない」と認めた

この間、市教育委員会に様々な質問が出されましたが、その中で、教員の「ブレーカーを落とした」という過失について、市教委は、「ブレーカーを落としたらスイッチがきかない状態になる」ということに対して「予見できなかったと思われる」と述べ、「今回の事案は故意や重過失には当たらない」と回答しています。要するに、予見が難しい操作のミスで重過失には当たらないことを認めています。

取扱説明書・マニュアル・事前説明もない、行政の責任は明白

民法第709条は「故意または過失の場合、賠償責任を負う」としていますが、その前に最高裁判例のように、使用者側の責任、今回では行政の責任がまず問われます。今回のケースでは、取扱説明書も東京のようなプール管理マニュアルもなく、間違った写真1枚で、事前説明もなく操作が初めての教員に業務をさせるなど、行政側の責任を果たしていないことは明らかです。

本来業務とは言えず、教員の過失でさえない

また、最高裁判例では、労働者側の事情、業務が臨時的かどうかも考慮されます。今回の場合、教員に多額の賠償責任を負わせれば、その生活に困難をきたすことは必須です。業務については、教員の人員不足は深刻となる中で、業務は際限なく広がっており、今回のようなプールの管理という本来的な教員の業務とまでは言えないような周辺業務に従事する中で発生したミスであり、教員個人の責任とすべきではありません。以上の点から、教員が業務に従事する中で、ミスによる損害が生じたとしても、故意または重過失でない限り、損害賠償を請求すべきではありません。

教員への個人賠償は不当、撤回を!

今回のケースは、行政側の不備によって起こったミスであり、教員の過失でさえありません。よって教員個人への賠償請求は不当であり、賠償請求は撤回することを強く求めます。

学校プールをなくしたり、安易な民間活用は賛同できない

今後の対応についてです。

答弁では「安全管理マニュアルを改定し徹底する」と述べていますが、これによる教員の負担増にならないように、教員とは別の職員を配置して行うことを求めておきます。「民間活力の活用」との答弁もありましたが、学校プールをなくしたり、学校の管理を民間会社に任せるなど、多くの問題を含んでいます。このような安易な民間活用には賛同できないことを述べておきます。