予算特別委員会―臨港道路が必要という根拠は一つもない
3月7日、予算審査特別委員会で、宗田議員は、臨港道路東扇島水江町線の問題を取り上げました。臨港道路の事業目的がすべて破綻していることを示し、必要という根拠は一つもないことを明らかにしました。その質疑の内容を以下に紹介します。
◎質問
臨港道路東扇島水江町線整備事業について、港湾局長に
代表質問では事業評価監視委員会が出した再評価と総事業費を了承した経過について質問しました。今回は、国交省が、再評価の資料として出している「臨港道路整備事業」の事業目的について質問します。
事業目的の「物流機能の強化」についてです。
川崎市は、2014年9月に「川崎港湾計画」を改訂し、コンテナ貨物取扱量の見通しを「平成30年代後半に年40万TEU」とし、臨港道路の必要性の最大の理由にしています。今回の物流機能強化の最大の理由の一つにもしています。
しかし、この間、川崎港では、2009年からの8年間で約9万TEU増加しましたが、平成30年代後半まであと8年、同じペースで増大しても21万TEUにしかなりません。また、コンテナ航路数のこれまでの実績は2017年までは5航路で12万TEUです。1航路当たり2.4万TEUで、今後5航路増えるとしていますが、増えたとしても12万TEUで24万TEUにしかなりません。8年間で40万TEU達成するには今のコンテナ貨物量の3.3倍、330%にする必要があります。しかし、隣の横浜港は、この10年間でコンテナ取扱量は55万TEUも減らしているのです。東京港も、日本全体の取扱量を見ても、この10年間、ほとんど変わりありません。どうして川崎市だけ、今後8年間で3.3倍になるのでしょうか。
① コンテナ貨物取扱量が「平成30年代後半に年40万TEU」という目標について、あと8年で達成できる見込みがあるのか、具体的根拠について伺います。
◎答弁
川崎港港湾計画におけるコンテナ貨物取扱量の目標値といたしまして、平成30年代後半において、 40万TEUを設定しているところでございます。これまで、川崎港では、官民一体となった積極的なポートセールスを実施した結果、新規航路の開設が相次ぎ、コンテナ貨物取扱量は、着実に増加し続けているところでございまして、平成29年の公共埠頭における取扱量は11万900OTEUと過去最高を記録し、平成30年においても、さらなる増加が見込まれているところでございます。さらに、国の事業評価監視委員会の資料においても、「川崎港のコンテナ貨物量は5年で約3倍に増力剛していることが、コンテナ貨物の動向等として記載されているところでございます。また、平成32年度までに、コンテナ貨物取扱量を、15万TEUとする目標を、官民で構成する川崎港戦略港湾推進協議会において決定し、コンテナターミナルの蔵置能力の拡充に向けた、施設整備を進めているところでございます。今後とも、積極的なポートセールス活動を展開して、さらなる川崎港の発展に向けた取り組みを進めてまいります。
◎質問
「コンテナ貨物量は5年で3倍に」との答弁でしたが、9万TEU増えて現在12万TEU、このペースで増えても8年後には21万TEU、目標の半分です。40万TEUに達するという根拠は全くありません。横浜港は大幅に減らし、日本全体が横ばいという状況で、8年後に現在の3.3倍化というのは、まったく現実味がありません。
事業目的「緊急物資輸送ルートの多重化」についてです。
「緊急物資輸送ルート」として海上輸送物資を東扇島の広域防災拠点から被災地に物資を輸送するとのことですが、わざわざ市内中心からは遠くて、橋やトンネルを必要とする東扇島から物資を輸送することが、現実的なのでしょうか?橋やトンネルは災害時には通行できなくなる可能性も高いのです。東扇島よりももっと市内に近い岸壁、物資の輸送に適している個所はいくらでもあるのではないでしょうか。
② 災害時には、トンネルや橋は通行止めになる可能性はないのですか、伺います。
③ なぜ、わざわざ、市内から最も遠い東扇島に緊急物資を陸揚げして輸送するルートを取ったのか、伺います。
広域防災拠点といっても岸壁もない人口海浜に船から荷揚げするとのことです。しかも説明では海上自衛隊のLCACという特殊な船を使って輸送訓練をしていますが、
④ なぜ、岸壁もない人工海浜に陸揚げする必要があるのか、伺います。
◎答弁
はじめに、災害時における緊急物資の輸送についてでございますが、現在、東扇島と内陸部を結ぶルートにつきましては、川崎港海底トンネルのみでございまして、災害時におけるリスク分散を図るため、臨港道路東扇島水江町線の整備が、橋梁構造にて進められているところでございます。こうした、構造の異なる二つのルートが整備されることにより、緊急物資輸送ルートの多重化が図られるものでございます。
さらに、今回、国において耐震設計の見直し等がなされたことにより、橋梁の耐震性は、さらに向上されるものでございます。
次に、東扇島への緊急物資の陸揚げについてでございますが、東扇島東公園は、大規模災害が発生した際に、 緊急物資の輸送を図る、首都圏における基幹的広域防災拠点に、位置付けられているところでございます。 次に、.緊急物資の受け入れについてでございますが、基幹的広域防災拠点への、緊急物資の輸送用岸壁として、東扇島9号岸壁及び31号岸壁を位置付けております。
◎質問
「内陸を結ぶルートがトンネルのみ」という答弁ですが、わざわざトンネルを通らなくても、もっと内陸に近いふ頭はたくさんあります。千鳥町の市営ふ頭は、島周辺全体の半分以上占めており、市内にも近く、ここを広域防災拠点として整備すれば何の問題もありません。市内から最も遠い東扇島に緊急物資を陸揚げして、そこから輸送するという構想自体無理がありますし、このルートのために橋が必要というのは根拠になりません。
事業目的の「交通渋滞の解消」についてです。
国交省の資料では、夜光交差点や塩浜交差点の渋滞がひどい、国道357号の出入口周辺が混雑しているとして「交通渋滞の解消」の必要性を強調しています。
⑤ しかし、交通渋滞の箇所が夜光交差点、塩浜交差点、国道357号の出入り口周辺ということであれば、交差点改善や物流ルートの改善で対応するのが普通ではないですか、伺います。
これら交差点や国道357号の先のトンネルが渋滞しているということなら、まだ話は分かりますが、トンネル内の渋滞はあるのでしょうか。トンネル内の混雑度については混雑度の対策が必要な基準は混雑度1.25です。しかし、2015年2月、市民委員会の答弁で「海底トンネルの計画交通量は1日29000台に対し、現状ピーク時で1日3万5000台の交通量に達する」と述べていますが、ピーク時の35000台を超えた日は年間で1日のみで、しかもその混雑度は1.21であり、対策が必要な1.25を超えた日は一日もなかったということです。トンネルの混雑度は、週4日は混雑度1.04、週3日は混雑度0.63で、市の渋滞対策を担当する建設緑政局に聞くと、1.0に近くても、それだけでは混雑しているとはいえず、1.25を超える場合であっても新たな道路の整備の前に、まずは交差点の車線や信号の調整などソフト対策を優先するということでした。トンネル内の混雑度はピーク時であっても1.25を超えない程度で、とても新たな道路が必要な状況ではありません。
⑥ 新たな橋を架けるほどの渋滞はどこで起こっているのでしょうか、伺います。
⑦ 川崎駅から東扇島への通勤利便性のため、新たに道路ができてもトンネルルートはわずか2分短縮、臨港道路経由でも10分短縮です。そのために、980億円もかける必要があるのか、伺います。
◎答弁
国道357号と市道東扇島1号線との交差点の混雑の 緩和につきましては、川崎港運協会をはじめ、立地企業から、継続的に要望をいただいているところでございまして、交通混雑の緩和と安全陛の向上は、物流の円滑化などの観点からも、重要な課題と認識しております。こうしたことから、本市といたしましては、当該地域の交通環境の改善などに向けて、国や、交通管理者等と連携を図り、現地調査や勉強会を開催するなど、協議を 進めているところでございます。
次に、交差点改良や物流ルートの改善についてでございますが、東扇島地区につきましては、総合物流拠点としての、機能強化が図られていることから、交通渋滞の改善に向け、臨港道路東扇島水江町線など、新たな物流ルートの構築とともに、交差点改良などに取り組むことは、必要と認識しております。
次に、臨港道路東扇島水江町線の費用対効果についてでございますが、本事業は、国の直轄事業として、本年1月に、国の事業評価監視委員会において、走行時間短縮便益などの効果が費用を上回ることなどから、事業の継続が了承されたところでございまして、本市といたしましても、川崎港の物流機能と防災機能の強化など、整備効果の高い事業と認識しているところでございます。
◎質問
「新たな橋が必要になるほどの渋滞が起こっているのか」という質問に対して、何ら具体的な答弁がありませんでした。トンネル内は混雑というほどの状態ではなく、東扇島からかなり離れている夜光交差点、塩浜交差点の混雑ならば、交差点の改良で済むのです。国道357出入り口付近の混雑は、わが党の議員が指摘したように信号の設置や物流ルートの改良が優先で、橋が必要という理由にはなりません。
「東扇島の労働者の避難路」という理由についてです。
「臨港道路東扇島水江町線」について、市長は、災害時の緊急物資の輸送路と、東扇島の就労者1万人の人命を守るための避難経路になると答弁していました。しかし、市の避難計画では島内における垂直避難を基本とし、車による避難は奨励していません。しかも水江町は、コンビナート災害の可能性が高く、「津波浸水地域」です。そもそも災害時は橋やトンネルは通行止めになる可能性が高いのです。避難施設にしても、東扇島には5か所の津波避難施設1700人分がありますが、水江町には1か所200人分しかありません。
⑧ 東扇島の労働者を、なぜ、危険な橋を渡って「津波浸水地域」の水江町に誘導するのか、伺います。
◎答弁
本市地域防災計画において、津波から身を守るためには、まず、津波が到達しない高台避難することが大原則とされているところでございます。災害時においては、避難経路や避難手段を確保することが重要でございますが、災害の形態や発生場所は特定できず、避難すべき場所は状況によって異なることから、避難経路に、選択の幅を持たせることが必要でございます。臨港道路東扇島水江町線の整備につきましては、防災上の観点からも、重要と認識しております。
◎質問
答弁のように、市の防災計画でも「高台避難が大原則」です。震災の際、危険な橋に誘導したり、火災や浸水の危険のあるコンビナートへの避難誘導は、間違っているだけではなく、危険であり、橋が必要な理由には、まったくなりません。
事業目的の変更について
これまでの議会でこの橋の目的・必要性について論戦してきましたが、その根拠がことごとく崩れ、目的が次々と変わってきています。最初はコンテナ取扱量が「30年代後半に年40万TEU」になるという理由、次に「東扇島の労働者の避難路」を持ち出してきて、さらに「海底トンネルの渋滞対策で交通の分散化を図るため」という理由をだされました。今回は「緊急物資輸送ルートの多重化」のためとしていますが、東扇島からの緊急物資を輸送すること自体、現実的ではありません。
⑨ このように事業目的が毎回変わるごとにその理由は破綻していますが、なぜ、毎回、事業目的が変わるのか、伺います。
◎答弁
臨港道路東扇島水江町線は、平成21年度に国において事業採択をされているところでございまして、事業の目的は「東扇島地区と内陸部との円滑な接続により物流機能を強化すること」及び「東扇島地区と内陸部を結ぶ緊急物資輸送ルートの多重化を図り、防災機能を強化すること」とされており、現在まで同様でございます。
◎質問
答弁された「物流の強化」や「緊急物資輸送ルート」の根拠は、これまで述べてきたように、橋が必要という理由にはなりません。当初から最大の理由であるコンテナ取扱量が「30年代後半に40万TEU」になるという根拠が崩れ、他の理由を持ち出しても、そのたびに根拠が崩れてきたというのが、今の現状ではないでしょうか。
事業費の増額について
今回の事業変更について意見を求められた市長は、「確実に予算を確保・執行し、事業期間内に完成させるよう整備を推進されたい」と巨大事業に前のめりであり、今後も、事業の進捗状況等については、本市と情報共有を図るとともに、「事業内容に重大な変更等が生じる場合には、十分な時間的猶予を持って調整されたい」と延べています。
⑩ 一本の橋に980億円も予算をかけながら、さらに、事業費が膨れるとお考えなのでしょうか、伺います
◎答弁
国の事業評価監視委員会の開催にあたりまして、本事業にかかる原案に対して、平成30年12月に、国から意見照会があったところでございます。本市からは、「徹底したコスト縮減による、総事業費を圧縮されたい」等の意見を国に対して、提出したところでございます。
◎質問
2016年の事業評価監視委員会の報告の時にも、市長は「コスト縮減」を要望してきましたが、今回、総事業費が約2倍にも膨れ上がったのです。これは、市長の要望を、まったく無視したものであり、異議を唱えるべきですし、簡単に受け入れるべきではありません。また、総事業費がこれ以上膨れないという根拠もありません。
市内の橋の老朽化について
川崎市内には既存の道路橋が全部で619本あり、架け替えを含め、老朽化対策が必要な橋が多くあります。中でも橋の年齢が60年以上の主要な橋りょうは10本あり、多くは緊急輸送道路に指定されています。ところが、7本は架け替えの計画はなく、川崎市の「橋りょう長寿命化修繕計画」では予防保全型の修繕による延命策で、長持ちさせるということです。比較的規模の大きな165本の橋りょうについて架け替えを含む従来の対処療法では今後60年間で最低でも620億円が必要になると試算しています。
⑪ 市民生活にとって、必要性も説明できないような不要不急の巨大な橋に、980億円もつぎ込み、問答無用で、強行するのではなく、市民生活に身近な橋りょうの架け替え・維持補修の取り組みに予算を振り向けるべきです。伺います。
◎答弁
臨港道路東扇島水江町線は、東扇島地区と内陸部を結ぶ臨海部交通ネットワークの一翼を担い、川崎港の物流機能を飛躍的に向上させるとともに、災害時における、リダンダンシーの確保などが、図られるものと認識しております。
また、橋梁の維持補修につきましては、関係局において「川崎市橋梁長寿命化修繕計画」を策定し、可能な限り橋梁の延命化を図れるよう、効率的、計画的な維持管理に努めていると伺っているところでございます。
こうしたことを踏まえ、災害に強い交通環境の整備に向け、関係局と連携し、国の直轄事業である臨港道路東扇島水江町線の整備に、取り組んでまいりたいと存じます。
◎意見
1本980億円のかかる橋に対して、その必要性、根拠については、全く説明できていません。その一方で、築60年以上の橋が市内には10本あり、その7本が架け替えの計画もなく、その他に修繕が必要な橋が市内に165本あり、その総額は620億円です。臨港道路東扇島水江町線の整備事業は中止をし、市民生活に必要な橋梁の架け替え、維持補修こそ早急に実施すべきです。要望しておきます。