川崎市臨海部の水素戦略の問題点と脱炭素の政策提案について
7月21日、自治体学校の第10分科会「地域・自治体から、脱炭素社会への転換をめざして」で使用した資料を紹介します。
はじめに
・川崎市は、CO2排出量で政令市トップであり、広大な臨海部(2800ha)において撤退したJFE跡地を使って、国の国際的な水素サプライチェーンをつくる、水素戦略(液化水素受入れ・水素発電)の拠点つくりをスタート。
・日本共産党川崎市議団は、3年前からこの計画に対して問題点を指摘し、対案として再エネ・省エネの生産供給拠点にするという政策を示して、市議会で論戦してきました。その概略を紹介します。
- 世界的な最優先課題について
(1)日本:CO2排出量(カーボンバジェット)残余は6年で尽きる
・気温上昇を1.5度に抑えるために、今後、排出することができるCO2排出量(カーボンバジェット)について、政府間パネル(1PCC)第6次評価報告書(21年8月)から出されています。
・67%の確率で気温上昇を1.5度に抑えるためには、今後、排出することができるCO2排出量(カーボンバジェット)は、一般的には世界で4000億トン、日本の場合64.3億トンしか残っていません。日本のCO2排出量は年間11億トンですから、このままでいくと6年で尽きてしまいます。
(2)世界的なCO2削減の最優先課題は電力部門の脱炭素化
・国際エネルギー機関(IEA)は、そのためにはCO2排出量の4割を占めるエネルギー転換部門、発電部門を最優先に削減させる必要があるとしています。22年5月に開かれたG7(先進国)気候・エネルギー・環境相会合の声明でも「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化すること」を確認しました。
2.川崎市の最優先課題について
(1)CO2排出量:政令市でトップ、臨海部76%(7社で7割)
・CO2排出量について、川崎市は約2000万トン、政令市で1番であり、そのうち76%は臨海部から出されています。臨海部には5か所の発電所があり、1600万トンが排出されていますが、これは2000万トンにはほとんど含まれていないので総排出量は約3300~3500万トンです。川崎市の場合CO2排出量の約半分は電力部門から排出されています。
(2)川崎市の最優先課題:CO2排出量5割を占める臨海部の電力部門(5か所)を35年までに排出量ゼロに
3.川崎市臨海部の水素戦略
(1)オーストラリアで石炭から作った水素を輸入・・CCSでCO2を回収・貯留
*CCS(褐炭から水素を製造する際、排出されたCO2を回収し地中に貯留)
(2)‐253度に冷却して船舶で輸送・・膨大なエネルギーロス
(3)火力発電所の天然ガスに水素を混ぜて発電(混焼)、のちに水素のみで発電(専焼)・・40年代も混焼でCO2排出し、発電コストは火力の2倍
4.世界と日本の水素戦略の違いについて
(1)世界の水素戦略:グリーン水素(再エネから製造・CO2排出ゼロ)中心で電化困難な分野に限定
(2)日本の水素戦略:水素燃料電池が破綻し、水素混焼発電に切替・・膨大で国際的なサプライチェーンを構築/しかも未確立な技術ばかり(CCS、水素輸送・管理)/コスト
5.輸入水素・CCSの問題点について
(1)先進国の「35年までの電力部門のCO2ゼロ」に間に合わない(40年代も混焼でCO2排出)
(2)輸入水素発電は、膨大なエネルギーロス、発電コストは再エネの4倍、現在の火力の2倍で、電気料金の高騰に
(主要国の発電コスト)
太陽光 | 風力 | 火力(日本) | 水素(専焼) |
5~6円/kWh | 5~6円/kWh | 12円/kWh | 21円/kWh |
(3)国際的な水素サプライチェーン、CCS技術に莫大な投資をするが、技術は未確立、CCSを使用した低炭素水素では先進国基準をクリアできず使えない
・水素を「つくる」「ためる」「はこぶ」の水素サプライチェーン構築実証事業は世界初(水素製造、水素運搬船からの荷役、揺れる船からの極低温の液化水素を貯蔵・管理する技術、また、陸揚げする技術などは世界で初めての技術の実証)。しかも、褐炭からの水素製造、水素運搬などは、コスト、CO2排出量、採算性などの理由から、世界ではほとんど使われていない。
・CCS技術:米国の会計検査院は、政府が補助金を出した火力発電CCSは8件中7件が失敗と発表。残り1件も日本企業エネオスに譲渡。日本では、電気事業連合会は政府に対して「現時点において技術確立、社会実装にかかわる不確実性が高い」、石油鉱業連盟も「多額の投資が必要となる一方、リスクも非常に高い」と推進する業界自体からも問題点を指摘されており、国会の参考人質疑でも「コストが高い」と指摘されています。
(低炭素水素の基準・炭素集約度・・水素1kg製造時の温室効果ガス排出量)
EU | 米国 | 日本 |
3kg | 2kg | 3.4kg |
(4)世界的サプライチェーンから外され、日本の製造業の危機に
・世界的な大企業では、「つくる」「運ぶ」「使う」「廃棄する」などすべての工程において、CO2排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)を強化する動きが強まっています。これらの工程でCO2を排出するような製品は、世界的なサプライチェーンから外す動きが強まっています。
(5)CO2を出し続ける火力発電所の延命、再エネ普及を阻害
(6)エネルギー安全保障・・エネルギーの海外依存
6.日本共産党の提案
臨海部の脱炭素戦略
(1)IEAや先進国が掲げる「2035年までに発電部門のCO2をゼロにする」という目標を達成するには、政令市で一番多い一のCO2排出量の川崎市では、その約半分を占める発電部門の排出量を2035年までにゼロにすることが求められている。IEAやG7の指針からいけば、発電部門の排出量1600万トンをゼロにする必要がある。目標と具体的行動を早急に示す。
(2)CO2排出量の7割を占める臨海部の電力、鉄鋼、石油関連企業7社とCO2削減目標や計画などの省エネ、再エネに向けた協定を結ぶこと。
(3)輸入水素を利用する発電は見直しをし、太陽光を中心とした再エネで2035年までに100%CO2フリーエネルギーを供給すること。再エネ、省エネ、蓄電池などの企業を誘致して臨海部の産業転換を図ること。
地球温暖化防止条例について
(1)地域電力会社について、一般家庭や工場、事業所への太陽光パネル無料設置まで拡大して、PPAモデルを推進する。(共産党の提案で実現)
(2)初期費用の負担、設置義務について、初期費用の掛からないPPAモデルを推進すると同時に、屋根面積が狭小の場合の除外規定を設ける。東京都のような省エネ・再エネ補助金制度を創設する。(共産党の提案で実現)
7.提案のうち実現した施策