川崎市の臨海部の産業政策
(川崎市に提出した23年度予算要望書の内容です)
世界的には、気候危機を打開するために脱炭素、省エネ、再エネを大規模に進めるグリーントランスフォーメーション(GX)という産業転換が起こっています。川崎市の臨海部でも、これまでの化石燃料を使った重化学工業から、脱炭素に向けた省エネ、再エネなどの産業に転換する産業政策が求められています。
世界的な流れ―CO2排出残余(カーボンバジェット)、日本はあと6年
2021年、国連気候変動枠組み条約、第26回締約国会議(COP26)が開催され、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べ「1・5度に制限する」ことを確認しました。そのためには温室効果ガス排出量を迅速・大幅に削減することが必要で、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ、30年までに世界全体では2010年比で45%削減が必要とされ、この10年が決定的に重要だと確認されました。これを実現するために、日本政府、各自治体はCO2削減に向けた脱炭素戦略の早急の見直しが求められています。
世界的な流れとして、2035年までに発電部門からのCO2をゼロにすることが求められています。67%の確率で気温上昇を1.5度に抑えるためには、今後、排出することができるCO2排出量(カーボンバジェット)は世界的には4000億トン、日本の場合64.3億トンしか残っていません。日本のCO2排出量は年間10.4億トンですから、このままでいくと6年余りで尽きてしまいます。
国際エネルギー機関、G7は「2035年までに電力部門の脱炭素化」を確認
国際エネルギー機関(IEA)は、そのためにはCO2排出量の4割を占めるエネルギー転換部門、発電部門を最優先に削減させる必要があるとして、2035年までに先進国のすべての電力部門の電気をCO2排出ゼロにするとしました。5月に開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合の声明でも「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化すること」を確認しました。
川崎市(CO2排出量・政令市一)―その7割は臨海部の電力、鉄鋼、石油関連7社から
CO2排出量について、川崎市は2018年度の排出量が2259万トンとなり、政令市で一番多いことが明らかになりました。排出量の産業系に占める割合は全国が48%なのに、川崎市は77%と極めて高く、この産業系のCO2排出量のほとんどが臨海部に集中しています。特にガス火力発電所5か所から排出される電力関連の排出量は、1600万トンと推計され、さらに鉄鋼関連から約900万トン、石油関連企業から約200万トンなど、電力、鉄鋼、石油関連企業から全市のおよそ7割が排出されています。環境局から「川崎市地球温暖化対策推進基本計画」案が出され、温室効果ガス排出量を「2050年までに実質ゼロを目指す」「2030年度までに2013年度比で50%削減する」という目標が示されました。計画では排出量、2259万トンを30年度までに1180万トン削減するとしていますが、臨海部の電力、鉄鋼、石油関連企業から出されるCO2をいかに削減するかが緊急の課題です。
臨海部の3部門は、火力発電所3社(東電、JR、川崎天然ガス)、鉄鋼2社(JFE、日本冶金)、石油関連2社(ENEOS、東亜石油)などわずか7社で構成されており、これら大規模事業所の脱炭素化は省エネにとって決定的です。全市的な省エネを進めるためにも、この3つの部門の大規模事業所7社と、CO2削減目標や計画などの省エネ、再エネに向けた協定を結ぶべきです。
川崎市の3つの課題―①電力部門のCO2ゼロ、②製造業の存続、③大規模な土地利用転換
脱炭素化を実現するためには、川崎市には3つの緊急課題があります。第1は、政令市一のCO2排出量の川崎市でも、その約半分を占める発電部門の排出量を2035年までにゼロにすることが求められています。IEAやG7の指針からいけば、発電部門の排出量1600万トンをゼロにする必要があります。
第2は、川崎市の特に臨海部で製造業を続けるためには、安価なCO2フリーエネルギーを早急に供給する必要があるということです。ある雑誌が脱炭素化で「工場が消える」という特集を組み、川崎市の臨海部が大きく取り上げられていました。製造業が消える理由として、日本は資源・エネルギーが高いこと、グリーン電力の不足、カーボンニュートラルへの対応が遅れていることが指摘されています。自動車工業会の報告書では、「日本は火力発電が75%と多く、再エネコストも高い」として、欧州では火力発電コストは11.9円に対して太陽光は6.8円と火力より再エネのほうが断然安いのに、日本の火力発電コストは12.3円に対して、太陽光は15.8円と高く、再エネが進まない大きな理由としています。世界的な大企業では、すでにCO2フリーエネルギーで作った部品や製品でなければサプライチェーンから外す動きが強まっています。これはCO2を排出するエネルギーで作っている部品や製品の輸出はできなくなるということを意味します。
第3は、脱炭素化に向けて、電力、鉄鋼、石油関連の大規模な土地利用転換が求められるということです。2800haという広大な臨海部のうち、電力、鉄鋼、石油関連の土地が約半分を占めます。JFEがすでに高炉の休止・撤退が予定されており、石油から再エネへの転換によって、さらに電力、石油関連の大規模な土地利用転換が必要となります。
川崎市の水素戦略―輸入水素は輸送、発電コストが高く2050年でもCO2 排出
これら課題を抱える川崎市は、その解決策として輸入水素による発電など水素戦略を進めるとしています。現在、川崎市の5か所の発電所は、天然ガスを燃料として発電していますが、これをCO2フリーの再生可能エネルギーに転換する必要があります。市は、この転換をCO2フリーの水素を輸入して、これを天然ガスに混ぜて発電し、将来的には水素だけで発電することを計画しています。しかし、輸入水素の発電コストは、資源エネルギー庁の試算では、莫大な輸送コストがかかるため2020時点では1キロワットアワー当たり97円もかかり、欧州の太陽光の発電コスト6.8円と比べて10倍以上も高く、とても現実的とは言えません。また、資源エネルギー庁のスケジュールでは、2050年になっても水素だけで燃やす専焼は難しく、50年時点でも発電所からCO2を出し続けることになります。IEAやG7が目標としている2035年までにCO2排出ゼロはとても達成できません。
再エネの世界の主流は太陽光と風力
現在、世界の再生可能エネルギーの主力は、太陽光や風力です。特に太陽光の発電量は、この10年で19倍、そのコストは10分の1となり、需要は急激に拡大しています。欧米では、2020年の発電量中の再エネ比率は、デンマークが85%、カナダが68%となっており、2030年~35年の目標比率は、デンマーク、イギリスが100%、カナダが90%、ドイツ、アメリカが80%としています。日本の再エネ比率20.3%と比べて段違いに再エネ化が進んでおり、2030年には、ほとんどの電力は太陽光や風力による再エネで賄う計画です。日本でも今後、太陽光や風力の発電量は急激に拡大することが予想されます。
臨海部の可能性―敷地6割の太陽光パネルで市内電力7割にCO2フリー電力を供給可能
臨海部の可能性について、電力、鉄鋼、石油関連の再編などで大規模な土地利用転換が予想されます。どんな企業が来ても、その建物、倉庫、貯油施設の建物全面に太陽光パネルの設置は可能ですし、駐車場の屋根、道路、運河にも設置できます。わが党が研究委託した試算では、臨海部の敷地の60%に太陽光パネルを設置。風力発電も既存の風力発電所に陸上6か所、洋上12か所を加え、既存のバイオマス発電所を加えると市内の電力使用量の約7割を臨海部の再生可能エネルギーで賄えること、臨海部以外の地域の公共・民間施設や住宅、農地などにも太陽光パネルを設置すると市内の電力は100%再エネを供給できることが明らかになりました。
臨海部に再エネ、省エネ、蓄電池などの関連企業を誘致すべき
臨海部での土地の再利用計画は喫緊の課題です。また、石油から再エネへのエネルギー転換が予想され、産業も石油関連から再エネ・省エネへと大規模な産業転換が予想されます。これら再エネ、省エネ、蓄電池の関連企業を川崎市に誘致すれば、市内への投資、生産につながり、生産物は市内で消費することになります。作れば作るだけ市内で消費される、企業にとってこれほどのメリットはありません。川崎市もこれらの企業を支援する形で投資をするのです。
市民に再エネ機器の無償提供、今の半額の電力供給が可能
例えば、川崎市がこれら太陽光パネルに投資をしたとすれば6200億円かかりますが、その電力を今の半額の1キロワットあたり7円で売電すると、売電収入は年434億円となり、投資した額は14年で回収できる計算です。これを実施すると、市は、市民や民間にも無償で再エネ機器を提供し、市民、民間企業は今の半額の電力を得られることになります。市は、再エネ、省エネ、蓄電池などの関連企業を臨海部に誘致することを検討すべきです。
2035年までにCO2フリーエネルギー供給宣言で製造業の誘致を
IEA、G7の指針に沿って川崎市が2035年までにCO2フリーエネルギーを今の半額で供給すれば、製造業の誘致の巨大なメリットになります。再エネ、省エネ関連企業に加え、製造業が誘致できれば、市の新産業、雇用が拡大し、巨大な経済波及効果が見込まれます。川崎市は全国に先駆けて2035年までに太陽光を中心とした再エネ100%供給都市とすることを宣言すべきです。
1. CO2排出量の7割を占める臨海部の電力、鉄鋼、石油関連企業7社とCO2削減目標や計画などの省エネ、再エネに向けた協定を結ぶこと。
2. 臨海部の脱炭素戦略について、輸入水素を利用する発電は見直しをし、太陽光を中心とした再エネで2035年までに100%CO2フリーエネルギーを供給すること。再エネ、省エネ、蓄電池などの企業を誘致して臨海部の産業転換を図ること。