予算の特徴-政令市トップの財政力を防災や子育て分野に
3月2日、日本共産党を代表して、宗田裕之が代表質問を行いました。予算の特徴、財政状況についての質疑を以下に紹介します。
●質問
予算規模は6年連続過去最大、財政力は政令市トップ
新年度予算案の特徴について、市長に伺います。
新年度一般会計予算の規模は、前年度比334億円増の7925億円で6年連続、過去最大。市税収入は、前年度比3億円減の3634億円で6年連続過去最大の昨年度とほぼ同規模。これは個人市民税が30億円増、固定資産税21億円増など人口増、市民からの税収増によるものです。財政力指数は、政令市トップで、4年連続、政令市で唯一の普通交付税・不交付団体となっています。2018年度決算では、財政健全化指標は、すべて基準値を下回っており、極めて優良。一人当たりの市債残高は、政令市の平均よりも7万円低く、借金の負担額が少ないのが特徴です。川崎市の人口増加率、生産年齢人口割合ともに政令市で最も高く、人口推計でも今後10年間は増加を続けるため市税収入の増加は今後10年間続くと予想されます。このように、市税収入、財政力指数、財政健全化指標のどれをとっても、川崎市は政令市でトップクラスの財政力を持っています。
減債基金は政令市平均の1.6倍、7年後は3100億円に
減債基金残高は、一般会計分でみると2204億円となりました。一人当たりの市債残高は政令市平均以下なのに、減債基金残高は政令市平均の1.6倍にもなります。7年後には3100億円を超え市税収入額に匹敵するほどになります。政令市の減債基金残高は、取崩額の平均4年分ですが、本市の8年後の残高は、その間の平均取崩額の8年分にもなり、金額にして約1600億円も多く、明らかに余剰過多の状況です。川崎市にとって7年後、3100億円を超えるような減債基金残高が、なぜ、必要なのか、市長に伺います。
「財政が厳しい」という根拠は一つもない
市長は、本市の財政状況について「今後、厳しい財政状況が続く」として、財政が厳しい理由に「収支不足による減債基金からの借入」や「社会保障費の増大」、「法人市民税の減収」、「台風被害への対応」などをあげました。
「収支不足による減債基金からの借入」という理由についてです。他政令市では、収支が不足する場合は、通常、基金への積立額を取崩して対応しています。川崎市でも、収支の足りない分は、減債基金の積立額431億円から減らして対応すれば、収支不足も出ないし、借り入れる必要もありません。他政令市ではそういうやり方で収支不足を出さないのが普通です。ところが、川崎市は積立額を取崩さず、そのまま積み立てて減債基金から借り入れすることで収支不足があるように見せています。こんな方法をとっているのは川崎市だけです。
減債基金からの借入累計が667億円あることが、財政が厳しい理由になっていますが、減債基金残高は、借入額を差し引いても1537億円あります。他の政令市の残高は取崩額の4年分ですから、1130億円で十分です。これだけ見ても川崎市は他都市よりも基金残高は400億円多くあり、この余剰分は今後8年間どんどん増え続けて1600億円にもなります。
さらに120億円という収支不足の額についてですが、予算の収支不足額も決算と比較すると毎年過大に計上されています。15年度は87億円、16年度は39億円、17年度は55億円、18年度は63億円と収支不足額は平均60億円過大に見積もられています。
以上のように減債基金残高、収支不足額が過大に見積もられており、しかも収支不足は減債基金への積立額を減らして対応すれば、収支不足も出ず借入も必要もありません。「収支不足による減債基金からの借入」は「財政が厳しい」という根拠にはならないと思いますが、市長に伺います。
一人当たりの社会保障費は、政令市平均より2万円も低い
「社会保障費の増大」という理由についてです。社会保障費である扶助費は、前年度比で131億円増ですが、福祉に使われるべき地方消費税交付金が80億円増額されたので、実質の増加額は51億円にすぎません。しかも、これは保育所増設等のためにどうしても必要な費用であり、増加した部分のほとんどは国や県からの補助から賄われるので、扶助費の経常収支比率は18年度決算では18.6%にすぎません。さらに、一人当たりの扶助費の額は引き続き政令市平均を下回っていますし、福祉予算である民生費も1人当たりにすると政令市平均よりも2万円も低い状況です。一方、一人当たりの個人市民税は、政令市平均より2万円以上高く、政令市トップの8万4000円です。市民にとっては、政令市で最も高い市民税を払っているのに福祉の予算は平均以下で、納得できるものではありません。「福祉の増進」という地方自治体の役割からみても、「社会保障費の増大」を「財政が厳しい」という根拠にすべきではありません、市長の見解を伺います。
「法人市民税の減収」という理由についてです。法人市民税は、消費税率引き上げに合わせた法人税割の税率引き下げで30億円減収するという内容です。しかし、同時に消費税引き上げにより県からの交付金、法人事業税交付金と地方消費税交付金は100億円の増額となります。交付金は市税収入に入らないため市税収入は減りますが、逆に交付金は100億円増えるので、市の収入としては70億円の増収となります。また、「米中貿易摩擦」を理由に企業収益の32億円減収を予想していますが、現在米中貿易は落ち着いており、この減収額は過大です。たとえその通りの企業収益減になるとしても法人市民税の減収62億円は、交付税との差し引きで、市の収入は38億円の増収です。以上の点から「法人市民税の減収」を財政が厳しい理由にはならないと思いますが、伺います。
「台風被害への対応」を厳しい理由に挙げています。台風被害対応の予算額は82億円ですが、台風被害防止のためとは直接関係のない羽田連絡道路のための浚渫費用30億円が大半を占め、それを除くと市の負担分は38億円です。さらに、防災のための予算である国土強靭化・地震防災対策の予算は5億円の減額。消防力・救急医療体制の予算も6億円の減額。災害時の機能強化、施設の耐震化のための上下水道の予算も13億円減額と大幅に削減されるなど防災予算自体は、削減されているのが現状です。防災や災害対策予算は拡充するべきであり、ましてや「財政が厳しい」という根拠にすべきではないと思いますが、市長の見解を伺います。
●答弁
初めに、減債基金への積立てについてでございますが、この積立ては、市債の満期一括償還のために計画的に行っている償還そのものであることから、国のルールどおりに積立てを行っているところでございます。
仮に、ルールどおり積立てを行わない「繰延べ」や、対象となる市債の償還額を超える「取崩し」という手法を選択した場合には、市債の償還財源を十分に確保することが困難となり、将来的に必要な施策を進めていくための財源が不足し、結果として市民の皆様に過度な負担を強いる事態が生じる懸念がございます。
次に、収支不足への対応についてでございますが、収支不足が生じている財政状況を市民の皆様に正しくお示しし、説明責任を果たすため、「借入れ」という手法を選択し、減債基金からの借入額を予算計上し、明らかにしているものでございます。
次に、社会保障費についてでございますが、財政環境が厳しい中でも、待機児童対策の継続的な推進や児童家庭相談支援体制の強化、高齢者・障害者施策などにしっかりと対応したことから、令和2年度予算では、約2,091億円、前年度と比べ6.7%増加しているところでございます。また、本市が必要な社会保障にしつかりと取り組んでいることは、扶助費に係る市民一人当たりの一般財源が政令市平均を上回っていることから、はっきりと見てとれるところでございます。
次に、法人市民税についてでございますが、地方法人課税の偏在是正による税率引き下げに伴い約30億円の減となったものの、法人事業税交付金の創設により、本市の歳入は約20億円の増となり、本市の影響額は約10億円の減となっているところでございます。
また、地方消費税交付金の増につきましては、社会保障の充実・安定化の取組に使用することとされており、本市におきましても子育て支援や介護事業の充実などに効果的に活用しているものでございます。
次に、国土強靭化・地震防災戦略の推進などの取組につぃてでございま.すが、昨年度は、災害救助基金への積立などに多額の予算を計上しておりましたが、令和2年度予算におきましては、昨年の台風被害からの復旧・復興や被災者支援に取り組むほか、地域防災力向上などの取組にもしっかりと予算を配分しており、自然災害への的確な備えや日常生活を安心して過ごせる環境づくりにつきましては、今後も必要となる予算を確保し、着実に推進してまいります。
●再質問
「減債基金3100億円がなぜ必要か?」答えられず
「7年後、3100億円を超えるような減債基金残高が、なぜ必要か」という質問に対して、基金への積み立てを「繰延べ」「取崩し」という手法で収支不足を埋めた場合、「市債の償還が困難になる」という答弁でした。しかし、今後、収支不足を積立額から取り崩して対応したとしても、財政局の資料では、7年後の残高は2923億円にもなります。それ以降の取崩額を考えると、他の政令市の取崩額の4年分と比較して、7年分、他都市より1200億円も多い額になります。いったいどんな事態があった場合、償還が困難になるというのですか、伺います。
●答弁
減債基金への積み立ては市債の償還そのものであり、残高の多寡にかかわらず当然に予算計上すべきものでございまして、このことは、本市の財政状況を市民の皆様に正しくお示しするためにも大変重要であると考えております。
本市の財政は大変厳しく、収支不足が生じているという事実は、対応の手法のいかんにかかわらず、変わるものではございません。将来にわたって必要な施策・事業を着実に推進していくために財政規律を確保し、持続能な行財政基盤を構築していくことが将来世代に対する
責任ある市政運営の姿であると考えております。
●再々質問
「償還が困難になる」状況はあり得ない
将来「償還が困難になる事態はあるのか」という質問に対して、答弁はありませんでした。将来、約3000億円も残高があるのに償還が困難になる状況などあり得ません。「収支不足があるから厳しい」という答弁ですが、収支不足を積立額を取崩して対応したとしても、7年後の残高は2923億円もあり、収支不足があるからと言って厳しいとはなりません。
「基金から借入れているから厳しい」という答弁ですが、借入累計を差し引いても残高は1537億円あり、他都市平均よりも多く、借入があるからといって厳しいとはなりません。しかし、市長は収支不足、借入を理由に厳しいと市民に示しています。これでは「市民に正しく示す」ことにならないのではないですか、伺います。
●答弁
先ほども申し上げたとおり、収支不足が生じているという事実は、対応の手法のいかんにかかわらず、本市財政の厳しさを示しているものでございます。
また、「繰延べ」や「取崩し」を選択することは、収支不足を見えにくくしているにすぎず、「借入れ」という手法を選択することが、本市の財政状況を市民の皆様に正しくお示しすることであると吉えております。
●最終意見
減債基金の余剰1000億円を防災や子育て分野に
相変わらず「収支不足が出ているから厳しい」という答弁でした。しかし、事実は違います。これまでの質疑で述べてきたように、収支不足だけでなく、借入、社会保障費、法人市民税、台風対策費についても、厳しいという根拠にならないことは明らかです。事実、減債基金残高は、他の政令市と比べて、将来1000億円以上も多くなるのは確かです。この余剰部分は、ためておくのではなく、また、臨海部の必要のない大規模事業費も削減して、将来、多大な予算や長期間かかる課題である防災分野、子育て分野に思い切った予算を組むべきことを指摘しておきます。